札幌軟石(さっぽろなんせき)

◆ 採掘地・丁場

札幌市南区常磐

◆ 主な特徴

風化に強く耐熱性のある石材。主に建築材として使用されますが、かつては墓石材としても使用されていました。

◆ 札幌軟石の有名な使用例

道庁旧本庁舎、旧札幌高等裁判所 など

札幌軟石の岩質データ

分類:凝灰岩

見掛け比重 1.33(g/cm3)

吸水率:24.33(%)

圧縮強度 1228(N/cm2)

 


独特のあたたかみを感じさせるレトロでモダンな味わいの銘石

北海道札幌市南区で産出される銘石「札幌軟石(凝灰岩)」の歴史は明治初期に始まると伝えられている。4万年前に支笏湖ができた時の火山活動の際、流れ出た火砕流が固結したものが札幌軟石である。

耐火性や保湿性、加工の容易さなどから建造物の資材として幅広く使われるようになり、札幌市資料館(1926年建設)をはじめとして、数多くの施工事例を今も目にすることができる。

この札幌軟石の採掘を行なっているのは現在、辻石材工業株式会社(北海道札幌市)一社のみである。明治25年に初代・辻平五郎氏が福井から渡道し、軟石採掘を始めたのが同社の起こりで、現社長の辻昌之氏は五代目となる。札幌軟石を採掘・加工する唯一の生産業者として、同社は創業126年という歴史を担うと共に、札幌軟石の文化を後世に継承していく重責も担っている。

取材に対応いただいた同社専務取締役・篠原雅樹氏によると「札幌軟石は主に建築材・造園材として北海道内での需要が中心ですが、ここ数年、本州からの引き合いも増えてきています。少し前に設計士の方による札幌軟石を採り入れた建築がグッドデザイン賞に選ばれたことがありまして、そのことを起点とした波及効果も表れてきているようにも感じています」とのこと。
このところ店舗の内外装材を中心に本州からの注文も徐々に増えているそうで、同社工場での加工・出荷業務もあわただしい状況が続いているという。

札幌軟石の持つ温かみのある質感・独特の色合いは建築設計者からの評価も高く、レトロかつモダンな味わいを感じさせるオンリーワンの素材として、様々なシーンで活用されるケースが増えているようである。
同社では現在、採掘4名、加工工場4名の8名体制で札幌軟石の生産を行なっている。1~3月は積雪や寒さのために基本的には原石出しは行なわれておらず、年内12月までに原石を十分にストックし、冬場は加工作業に専念することになる。
「岩盤は主に窯材、並材、建築材の三層があります。上の窯材の層は比較的柔らかく熱に強いため、今もピザ窯などによく使われています。次の並材の層は土留めや塀などの造園関係に、その下の建築材(石塔材とも呼ぶ)の層は硬く、建築や墓石に使われています」。
丁場に行くと、きれいな青空に映える緑の木々、その下に広がる札幌軟石の岩盤層が目に入ってくる。上から窯材、並材、建築材の三層に分かれる札幌軟石であるが、墓石にも使われる硬い建築材の層は限られているとのことで、その下へと掘り進めていくと柔らかい軟材の層になっているという。

石を叩いた時の音で石質と状態がわかる

同社の採掘と加工の職人はこの道30年〜40年のベテラン揃いである。その中でも熟練した技術・経験を持つ同社取締役の村井均さんは札幌軟石の硬さ・状態・キズなどの見分け方をこんなふうに教えてくれた。


「切り出した石を見てある程度の判断はできますが自分たちは石を叩いて確認しています。叩いた音の高低や響き具合で石の硬さと同時に中にキズが入っていないかなど石の状態がわかるんです。 当社の丁場は硬い石が採れますが、少し離れた場所の丁場では、あまり硬い石は採れませんでした。また別の丁場では、石質は硬いものの色味の赤い石が出てくるようなこともあり、そういったことからも、ここの丁場は硬さがあって落ち着いた色味の石が採れる、とても希少価値の高い丁場だと自負しています。」

村井さんがこの仕事にやりがいを感じるのは、切り出して加工した石が建材等として使われ、札幌軟石が見事に活かされた施工事例を見る時だと言う。明治中期から大正にかけて、建築資材としてさかんに使われた札幌軟石は、札幌市資料館をはじめ、ぽすとかん(旧石山郵便局)やKT三条ビルなど、札幌の歴史を物語る数多くの建造物に今もなおその姿を見ることができるほか、著名店舗や飲食店、一般住宅などにも数多く愛用されている。

札幌軟石の魅力は業界関係者のみならず一般の多くの人々からも高く評価されており、最近では「札幌軟石を北海道遺産に」と活動する市民ネットワークも広がっているそうだ。
「札幌軟石のファンの方々は数多くいらっしゃいます。5年ほど前からは札幌軟石の歴史や魅力を伝えていただいている『札幌軟石まつり』も行なわれており、このような取り組みをしていただいている方々のためにも、唯一の採掘・加工会社として、札幌軟石を守っていかなきゃいけないという思いを強くしています」と篠原専務。

建築材が中心ではあるが、現在も札幌軟石でお墓を建てたいと望む人もいるという。また古くに札幌軟石で建てた墓石の補修・リフォームの需要も少なくない。そうしたニーズに応えるためにも、そして札幌軟石を愛する人々の期待に応えるためにも、同社の活躍を願う声は、これからもさらに高まっていくことだろう。

◆辻石材工業㈱

北海道札幌市南区石山2条2丁目2-5
TEL : 011-591-3939
FAX : 011-591-3280

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