石コラムVol.16 墓と家

家の形をしたデザイン墓石を時折目にすることがあります。屋根があり、窓があり、扉があり、煙突もあったりする。そんな家の形をしたお墓を建てた人に話をうかがったことがあり、その人は「私の母はずっと借家住まいでしたので、お墓だけでも自分の家で安らかに眠らせてあげたいと思ったんです」と語っていました。

家、それは多くの人にとって最も落ち着ける場所であり、心の拠り所となる場所でしょう。永眠場所を家の形にすることは心情的に理解できるばかりでなく、お墓というもののコンセプトにもマッチしたものだと思われます。家もお墓も「安らぎ」の空間であり、愛や絆を確認できる温かい場所と考えられるからです。

その意味では、沖縄のお墓は象徴的です。有名な亀甲(きっこう)墓のほかにも破風(はふ)墓や屋形(やがた)墓と呼ばれる形があり、これらは中に人が入れるほど石室が広く設けられています。亀甲墓は亀の甲羅の形をしていることからその名がありますが、中国にその原型を求めることができます。

亀甲墓スタイルの伊是名殿内の墓(沖縄県那覇市)

亀甲状の屋根の下にある石室がカロート(納骨室)ですが、中には4畳〜8畳もの広さがあるものもあり、その前で清明祭(シーミー)と呼ばれる先祖供養の行事が毎年春に行なわれます。亀甲墓同様、中国をルーツとする清明祭は、家族や親戚が墓前に集まって、墓所の雑草を抜いたり、掃き清めたりしたあと、花、酒、食べ物などを供え、先祖の霊とともに一同で食すという人情味あふれる行事です。

人情味といえば、洗骨という風習も有名です。亀甲墓の石室内に安置した遺骸を数年後に洗い、きれいになった白骨を骨壷に納め直すものですが、亀甲墓、破風墓、屋形墓の石室が広く設けられているのも洗骨のためでもあるのでしょう。

沖縄も現在では火葬が普及していますが、土葬が一般的なベトナムでは現在も洗骨の風習が残っているようです。ベトナムには、土が盛ってあるだけの土饅頭(どまんじゅう)型としっかりした石造りのお墓の2種類のお墓があります。最初の数年間は土葬して土を盛り、その後、掘り起こして、洗骨をしてから墓石に納骨するようです。ベトナムの墓石の形には、横に寝かせる西欧風の石棺型のものが見られ、フランスの植民地になっていた歴史的背景がうかがわれますが、家の形をした墓石も目に留まります。

家の形をしたお墓というと、何か奇をてらうような印象を持つ人もいるかもしれませんが、たとえ家の形をしていなくても、「温かさ」をテーマにお墓を考えてみると、家というモチーフは大きなヒントにもなるのではないでしょうか。