楽しい石入門 9時間目「風化によって何が変わる?」

酸素に触れて石は変質する

記者 先生、今回はいきなり質問です。つい先日、この連載の復習も兼ねて山石屋さんの見学に行ってきたんですが、どうも普段見えているところと見えていないところでは、石目が変わってしまうことが多いみたいなんですよね。

先生 見えているところとは、つまり山の露出している部分ということですか。

記者 そういうことです。最初は山の上の方から石を採っていって、地面の下へと掘っていくケースも多いと思いますが、そういった時に、同じ石なのに、青目の石がいきなり白目になったり、あるいは錆石が出てきたり・・・。これってどういうことなんでしょう?

先生 それは簡単にいうと、風化による違いだと思いますよ。つまり、石が空気や水に触れることによって変質していくんです。

記者 じゃあ仮に、墓石として品質が良いとされる石が、地表付近で採った石だとしたら、それは風化したおかげでもあるということですか。

先生 そうですね。もちろん、一概に風化が原因だとは言えませんけれど、たとえば地下5㎞くらいのところから石を採ってきたら、まったく違う色だったりするのかもしれません。

記者 そして、人間の目から見たら、そっちの方が品質で劣ると言われてしまうかもしれないと?

先生 可能性としてはあるでしょうね。風化していない方がオリジナルというか、その石本来の色ではあるのですが、だからといって墓石としての価値はまた別の話。そう考えると、なんだか不思議なものですね(笑)。

 

重さと硬さも変わっていく

先生 ちなみに前回と前々回では、石の重さや硬さについてお話しましたが、風化という現象はそのどちらにも影響を与えることがあるんですよ。

記者 そうなんですか。

先生 端的に言いますと、まず古い石は軽くなるんです。風化というのは、なにも風とか雨とかによって起こる表面的な現象ばかりとは限りません。とくに酸素や水がわずかずつでも染み込んでいく状態では、時間の経過によって見えない内側の部分も風化していく。つまり、隙間や穴が増えていくんです。

記者 なるほど・・・。隙間や穴が増えることで、その分だけ軽くなるわけですね。

先生 そして、その隙間に入り込んだ水が、今度は石の硬さや耐久性を損なう要因の一つにもなってくるんです。

記者 えっ、それはどういうことですか?

先生 仮に隙間に入り込んだ水が凍ってしまうと、どんな現象が起こると思いますか?

記者 ・・・冷たくなる。とか、そんな当たり前の答えじゃないですよね(笑)。

先生 ヒントは体積です(笑)。つまり、水は凍ったときに体積が増えるという性質を持っていますから、その凍った水が隙間を押し広げてしまうことによって、石が割れる可能性も生じてくるというわけです。

記者 な、なるほど・・・

先生 もちろん、これは非常に長い時間の中で見たお話ですけどね。それに花崗岩などは、もともと隙間が少ない石なので、すぐにどうこうというわけではありません。ただ、科学的に見るとそういう現象も起こり得る。このお話は、そういった一つの知識として知っておいていただければ十分だと思います。

 

石のさまざまな現象を説明する乾先生

 

熱膨張による岩石の変化

先生 そして体積が膨らむといえばもう一つ、熱膨張という現象にも触れておきましょう。

記者 今度は凍るのと逆で、熱くなった場合のお話ですね。

先生 まず大前提として、鉱物というのは熱を帯びれば体積が増え、冷えれば減るという性質を持っているんです。

記者 なるほど。

先生 しかし、膨張の度合いはそれぞれの鉱物によって違いますし、とくに黒雲母などは、方向によっても膨張する度合いが変わってきます。そのために鉱物と鉱物のあいだに隙間が生じてしまう。つまり、全体が同じ比率で膨張するわけではないので、そのために隙間ができて割れる一因になってしまうんです。

記者 しかし先生、そもそもなんで熱くなると膨張するんですか?

先生 それは一つひとつの原子の運動が激しくなるからです。ちなみに地球の温暖化で海の水位が上がるといわれていますけど、あれも水の膨張が影響しているんですよ。

記者 そうなんですか。てっきり北極や南極の氷が溶けるからだと思っていました・・・。

先生 それもありますけど、水の体積は凍ったときだけでなく、温度がほんの少し上がっただけでも増えていくんです。これはもちろん、小さなコップの水くらいではわからない程度ですけどね。あと、わかりやすい例でいいますと、これからの季節は黒御影。

記者 黒御影そういえば、真夏は目玉焼きができるくらいに熱くなるそうですね。

先生 熱くなっているときに突然水をかけると、割れてしまうことがあるでしょう?あれは表面だけが急に冷えて収縮することが原因なんですよ。

記者 そうなんですか。

先生 あれはトマトの湯剥きに近い現象ではないかと思います。ほら、茹でたトマトを水に入れると、すぐに皮がむけるじゃないですか。なぜなら、外側だけが冷えて、中はまだ熱いままだから。つまり、急激に生じた温度差が原因になっているんです。

記者 なるほど~。それはまさに女性ならではの、ものすごくわかりやすい例えですね(笑)。
先生、今回もありがとうございました

 

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