彫刻家に聞く「石の魅力とは」vol.26(山添 潤氏)
この企画では、彫刻家が感じている「石の魅力とは何なのか?」、「なぜ石で彫刻を作っているのか?」ということをお聞きしていきます。
今回は東京・渋谷区にありますトキ・アートスペースで開催された山添潤さんの個展でお話を聞かせてもらいました。
「自分が手で石を彫るじゃないですか。彫るというアプローチ、行為、彫るということで石と付き合っているんですけど、その都度、その時期というか、例えば始めた頃は少ししか彫れないし、5年後はもっと上手くなっていて、沢山彫れているっていう。
自分のレベルが上がっていくごとに作るものが表情を変えていく。だから自分を受け入れてくれるような素材なのかな。そういったことが石の魅力なのかなと思います。
表面を磨いたり表情を付けたりとか、表面上のそういったことには興味がないのですが、その都度その都度の、自分の成長過程が石にもろに反映される。そういった素材なのかなって思います。
私は石にしか魅力を感じなくて、他の素材を使ったことがないので他の素材のことは語れないですけど、軟らかい石は軟らかいなりに、硬い石は硬い石の要領があるんですが、素材によって表現方法も変えているというか、変わっていくって感じですね。
私の習った先生は『彫刻家はオールマイティーじゃないと駄目だ』と言っていましたけど、俺は偏ってもいいって思っていたんで、1個の素材を極めるっていうのも結構大変なもんだから。まぁ極める必要もないのかもしれないけれども、まだやれることはあるのではないのかなぁと色々と模索しています。
この10年位、意識的に機械類をなるべく使用せずに手で石を彫っています。あまり器用じゃないし、手で彫ればある意味一番お金がかからない素材だなと。金はないけど時間だけはいっぱいあるから手で彫る(笑)。それで良いのではないかなと思っています。
習っていた頃はグラインダーでガチャガチャやっていただけで一つも完成させられなかったんじゃないかなと思います。その時は石を触るのは面白かったんですけれども、エネルギーの出し方がよく分からなかったんです。結局ちゃんと彫り出したのはそこを出てからだと思います。先輩の彫刻家の手伝いをしながら、ここはこういう風にやるのねといった感じで覚えていきました。
作品は最初は矢でバンバン落としていって、それから大きいノミでハツっていって、中くらいのノミを使って、最後は細いノミを30本位使って、ノミの先がちょっと丸まったらすぐ交換して彫っていく。すべてハンドメイドですね。仕上げが細かいので中くらいのノミで全体をやってからが長いんですね。
今回の作品はねちっこく彫っていきました。きりがない様な作品ですが、きりがない中で何か出てこないかなと思ってやっています。
違う違うと彫っていきながらすぐ1日が過ぎていってしまいます。コツコツとやっていますが、そうでしか出来ない表現っていうのもあると思います。もっと早くバッと作ってしまえばいいのですが、なかなか時間がかかってしまうというか、手数を入れていかないと思うようにならないといった感じです。でも、まだ若いから手数を入れた作品をもっと彫ろうかなと思っています。
今回の作品は残像という題名を付けています。2013年から始めた残像シリーズでは彫るという行為をもう一度見直してみようと思いました。私の作品は形を作るっていうことではなくて、彫っていく行為から出てきたものなので、彫っていくと残ったもの、そんな仕事をしています。
その都度その都度様子を見ながら引き出せるものを引き出して要らないものは捨てていってという、その繰り返しですね。
今回は黒御影を使っていますが硬い石が好きですね。軟らかい石だと自分の力をセーブして彫っていかないといけないので硬ければ硬いほど良いですね」。