銘店“石屋”シリーズ 石清 鈴木石材工業(静岡市)
家族と仲間に支えられて
石清 鈴木石材工業(静岡県静岡市)の鈴木清仁氏は3代目。愛知県の岡崎産地で修業した祖父が静岡に来てからの創業で、60年以上の歴史を持つ家族経営の石材店である。家族それぞれで役割を分担しながら仕事をこなしており、昔ながらの「町の石屋さん」という雰囲気がある。
「初代の祖父は愛知県の蒲郡の出身で、岡崎で修業をしていました。当時の静岡は軟石の伊豆石を使うことが多かったようで、御影石を扱える職人が不足しているということでこの地に来たようです。
2代目の父は5年前に病気をしまして現在はほぼ引退していますが、母は地元のことや昔のことがよくわかるので店番をしてくれていると安心できますし、姉は話好きなので営業的なことをやってもらっています。嫁は手先が器用なこともあり、ゴム切りや目地などの現場的なことをしてもらっています」。母の英子さん、姉の並木千芳さん、妻の久美子さん。家族それぞれが特徴・役割を持っており、適材適所によってうまく同社のバランスがとれている。久美子さんはイラストを描くのも上手く、夫の清仁さんの似顔絵入りのPOPも制作している。清仁さん自身はといえば「自分はセールスエンジニア」でありたいとのこと。
「自社工場で切ったり磨いたりもできますが、そんなに量を作れるわけでもないですし、自社加工の割合を増やそうとは考えていません。それよりも、研磨に秀でていたり、字彫が上手かったり、施工が得意だったりする仲間がいるので、そうした仲間に協力してもらいながら、最終的にいい仕事になればと考えています。僕は職人という立場よりは、セールスエンジニアという位置づけでいたいですね。職人さんは『自分が一番上手い』という自負を持っている方も多いですが、僕は自分を前に出していくよりは、特徴のある職人さんに手伝ってもらいながら、全体をまとめていい仕事にしていくという立場が合っていると思います」。
家族内でも役割分担のバランスがうまくとれているのと同じように、協力してくれる仲間のそれぞれの特徴を活かしながら、質の高い仕事を目指す姿勢だ。鈴木氏のそうした横のつながりを大切にする姿勢は、別の面にもある。 「経営的な面で勉強になったという点では、静岡県石材組合の青年部や日本青年会議所の石材部会でいろいろな方と交流できたのが大きいですね。僕は修業をしていないので、それはマイナスだと最初は感じていたのですが、逆にいろいろな人から教えてもらえることが多く、今ではプラスだったと考えています」。
365日年中無休 家族ゆえの機動力
家族経営のデメリットを聞いてみたところ、「良くも悪くも自分一人の判断が強くなってしまう」点だと鈴木氏。しかしながら、20代、30代の若い頃にいろいろな経験ができたおかげで、そうした判断力も磨かれていったようである。逆に家族経営のメリットを聞くと、即座に「365日年中無休」という言葉が返ってきた。 「明日までに仕上げなきゃいけないという仕事があったりした場合、家族経営の場合は小回りの利く機動力がありますね。仕事と生活が直結しているので、感じる仕事の重みが違うと思いますし、いざという時に一丸になれる安心感があります。子供にも仕事をしている姿を見せられるという点も、家族経営ならではだと思います」。
同社では寺院墓地での仕事が多く、お寺との付き合いも重要になっているようだ。山に行って取ってきた竹で流しそうめんをしたり、石挽きコーヒーや石窯ピザなどで寺院の行事を盛り上げるのも大切な役割である。 「寺院の行事では女性パワーが頼りになります。接客でも世間話でも女性のほうが上手いですから、そういう点では男手だけの石材店より恵まれているかもしれないですね。流しそうめんなどは地域の子供たちが本当に喜んでくれます。 いろいろな方の紹介で仕事をいただくことが多いので、地域とのつながりは大切にしています。先祖や供養のことに熱心な方を対象にして仕事をしていきたいという思いはありますが、どんな縁が将来につながるかわかりませんから、小さな仕事でも大切にしていきたいと考えています」。
最初は石材店の仕事を3Kだと考えていたという鈴木氏であるが、いつしか石材店の仕事に誇りを持てるようになったという。ある施主の言葉もそのきっかけのひとつになったようだ。 「ある産婦人科の医者の方から仕事をいただいたのですが、その時に『僕が最初に赤ちゃんを抱くけれど、最後に抱くのは鈴木君だね』と言われたことが心に残っています」。 石材店の仕事に社会的な意義を感じることができるようになった鈴木氏にとって、365日年中無休の、生活と一体化した仕事も苦にならないのであろう。
石清 鈴木石材工業
静岡県静岡市葵区四番町1−5
電話:054-252-2441