銘店“石屋”シリーズ  有限会社佐野石材(静岡県藤枝市)

祈りの文化・お墓の大切さをたくさんの人に伝えていきたい

静岡県藤枝市の有限会社 佐野石材は、創業から170年もの歴史を持つ老舗石材店。現在は六代目の佐野雅基さんが代表取締役を務めています。佐野さんの取り組みは、さまざまな地域活動など、お墓づくりだけではなく非常に多角的。今回は、そういった地域活動にかける想いや歴史を刻み続けていく石材店としての目標などについてお話いただきました。

佐野雅基(さのまさき)さん
昭和47年生まれ。大学で工学系の研究を行ない、システムエンジニアの経験を経て同社に入社。現在は藤枝ライオンズクラブ、藤枝商工会議所などの団体に所属しているほか、石材業界の全国団体でも活躍している。趣味は歴史の勉強と旅行、おいしいものを食べること。小さな頃から武道を行なっており、合気道3段・柔道初段の持ち主でもある。

―まずは佐野石材の歴史について教えてください。

佐野 創業は安政元(1854)年。初代の佐野利助が、当時の益津郡郡村で石屋を開業したのが始まりです。今から170年ほど前ですね。
ただ、さらに歴史をさかのぼっていきますと、かつてこの地には天文6(1537)年に築かれた田中城というお城があったのですが、そこに残されている文献には、城内にあった大井神社の神主さんが佐野石屋の出、と記されているそうです。ほかにも秀吉の朝鮮出兵に関する記録にも名前が出てきたり、佐野石屋としての歴史はさらに長く、400年以上はさかのぼることができるようです。
私自身は、安政元年に分家してからの6代目になります。大学時代には工学部でさまざまなシステムについて学び、お墓を自動で生産する方法なども研究しました。大学院まで進み、卒業後はいろいろな経験を積もうと思い、企業の基幹システムをつくるシステムエンジニアを経験。セガのゲームソフト開発に携わったこともあります。そして2001年、30歳になる少し前に家業へ入り、2013年から代表取締役社長に就任。そして現在に至ります。

―佐野さんにとって、お墓の良さや魅力とは何ですか?

佐野 お墓というのは「その人に会える、その人がわかる」ものだと思うんです。ご家族の方にとっては、亡くなった大切な人に会うことができるところ。お墓の前にいると、その人に会っているような、相手がそこにいるような感覚を持てると思うんです。そして、その人に向かって話しかけることもできる。つまり、会いに行こうと思ったときに、会いに行ける場所。それがお墓の良さのひとつだと思います。
もうひとつは、ご先祖さまのことがわかるということ。お墓にはたくさんの情報が刻まれていますけど、データを残すという意味では、お墓も素晴らしい記憶装置のひとつです。昔からたくさんの人々が歴史や文化など、後世に残しておきたいことを石に刻み続けてきました。お墓も、そういった永続性を備えている大切なものだと思っています。

―佐野さんは藤枝青年会議所や藤枝商工会議所の青年部、藤枝ライオンズクラブなど、本業以外の地域活動にも積極的に関わっています。

佐野 もともと、そういうことが好きなんですよね。とくに今までの地域の歴史を調べたり、まちのことが少しずつわかっていく過程が楽しいんです。そのあたりの面白さは、お寺で住職さんに昔の話を伺ったり、お墓の仕事にも共通するところがあると思います。
そして何よりも、たくさんの人たちと関わっていくことにやりがいを感じます。みんなで意見を交換しながら、このまちをどうしていくか?どう変化させていくのか?そういったことの話し合いを通して、自分たちの力で地域を良い方向に持っていくような提案や行動ができますからね。
また、私は石屋ですから、代々歴史を伝えてきたというバックボーンもあります。まちを元気にしていくことに対して、歴史のことを踏まえたアイデアを出すこともできる。そういう意味では、石屋だからこそ地域に貢献できることも少なくないと思っています。

有限会社佐野石材では、「まちゼミ」などのイベントにも積極的に参加している

―地域の方たちに向けた情報発信・イベントなどにも力を入れていますね。

佐野 はい。地域の団体での活動と共に、佐野石材としても地域の活性化に協力できることがあるのではないかと考え、出来る限り、地域のイベントにも参加するようにしています。そのひとつが2012年から参加している「藤枝おんぱく」。石屋として、地元の神社仏閣や石仏の魅力に気づいていただきたいという想いもあり、地域の方たちと一緒に石仏などを巡りながら一日ガイドさせていただくプログラムなども企画しています。
このほかにも「まちゼミ」に参加しているほか、石窯でピザを焼くイベントを企画したり、一年で20以上の地域イベントに参加しています。また、地元の葬儀屋さんやお寺さん、司法書士さんなどと一緒に「終活みらい設計」という団体を立ち上げ、エンディングノートの書き方講座や、お墓参りセミナー、シニア向けのお片付けセミナーなど、それぞれの専門知識を活かしたイベントなども企画しています。これからは、この終活を軸に、シニア世代の方たちのお困りごとをサポートしていく取り組みにも力を入れていきたいと考えています。

―今後に向けた目標などを聞かせてください。

佐野 この仕事の一番の醍醐味は、いろいろなお客様と長く関わっていけるところだと感じています。お墓を設計して、基礎をつくって、石を加工して、さらに、お引き渡しの後も、メンテナンスなどを通して長い関係性が続いていくんです。そういった一時的な付き合いだけで終わらないところが、ほかの職種にはない大きなやりがいだと感じています。
また、最近はかつてと比べて、祈りや弔いの気持ちなどが希薄になっていると言われています。それは、そのことに気づく機会が減ってきているからではないかと感じており、そうした祈りや弔いの気持ちと向き合うことのできる、お墓や石仏などの魅力に触れていただく機会を少しでも多くつくっていきたいと考えています。
祈りは人間にとって根本的なことでもあり、祈りがなければ文化も発展していきません。石屋の一人として、古来、日本人が大切にしてきた祈りの文化、お墓の建立意義や石の魅力などを一人でも多くの方たちに伝えていけるような取り組みにも力を入れていきたいと思っています。

有限会社 佐野石材

有限会社佐野石材の展示場

所在地:藤枝展示場/静岡県藤枝市岡出山2-14-7
TEL:0120-998-683 FAX:054-645-0141
ホームページ:https://sanosekizai.com

いしマガ取材メモ

佐野さんは地域活動をはじめ石材業界の全国団体などでも活躍されています。性格的にも、非常に真面目で勉強熱心なタイプ。今も歴史などの勉強を継続されていて、常に自分を高めていきながら、お客様に対して、これまでの学びや経験を積極的に情報発信されています。旅行などに行っても必ず歴史関係のところに足を運ぶようにしているとか。ご本人は「好きだから、楽しいから」とおっしゃいますが、なかなかできることではありません。お墓をつくる上でも祈りの大切さや歴史などを踏まえた良い提案がいただけることでしょう。