銘店“石屋”シリーズ  石嶽石工業 有限会社(愛知県岡崎市)

大好きな「石屋」の仕事をしっかりと未来へ繋げていきたい。

「石都」と称される愛知県岡崎市は日本の三大石材産地のひとつ。この岡崎で石に関する幅広い仕事をしている石嶽(いしたけ)石工業は、優れた加工・施工技術が評価され、全国各地の石材店から寄せられる墓石・灯籠製作や各種石工事、さらにエンドユーザーへの墓石づくり・庭づくりなどで高い実績を持っている。同社代表の楠名康弘さんに、お話を伺いました。

楠名康弘さん
(昭和49年生まれ/1級技能士・伝統工芸士)

小学生から高校生まで野球を続けてきた体育会系人。技能五輪全国大会優勝、TVチャンピオン石職人選手権優勝、技能グランプリで銀賞を3度受賞するなど、数々の技能大会でタイトルを獲得。後進への技術指導にも力を注いでおり、職業訓練法人岡崎技術工学院で講師も務めている。40歳で「現代の名工」、43歳で「黄綬褒章」を受章するなど、卓越した技能を持つ石工として高く評価されています。

※技能五輪全国大会・技能グランプリは、ともに指定職種における技能日本一を競う大会(技能五輪は23歳以下の若手技能者が参加対象。技能グランプリの参加に年齢制限はないが一級技能士の資格が必要)。石工部門では複雑な形状の課題づくりを通して、その精度の高さ・作品の美しさなどが評価されるものとなっている。

―はじめに御社の創業について教えてください。

楠名 楠名家における石屋の初代は祖父となりますが、父(楠名嶽済)の兄弟3人が、それぞれ暖簾分けをして石屋を始めました。次男である父は灯籠づくりを専門とする石嶽石材を昭和46年に創業。これが当社の始まりとなります(平成3年に石嶽石工業㈲に変更)。
父は職人として技術を高めながらも、仲間と一緒に成長していくことを生きがいにしていたタイプで、いつも周りには仲間がいました。自分が小学生の頃から住み込みで働いている石工さんたちも多くいて、よく遊んでもらったことを覚えています。
当時は家の横が作業場だったので、石工さんたちが石をコンコン叩いている様子を見て育ちました。あんなに硬い石が、あっという間に製品になっていく。その光景を見ながら、めちゃくちゃかっこいいなと思って、自分も隣で石を叩く真似をしたりしていました。
そんな環境で育ったので、夏休みの自由工作はずっと石(笑)。時間があるときには灯籠の絵を書くなど(笑)。とにかく石工さんたちがかっこよくて、小学校の文集に「将来は日本一の石屋になる!」と書いていたくらいです。

―石屋さんになってからは、技能五輪で優勝したほか、TVチャンピオン石職人選手権で優勝するなど、若い頃から頭角を現していました。

楠名 自分が石屋さんになった当時は、当社は主に灯籠を作っており、それを全国の石屋さんに卸販売していました。ところが、その頃から中国製品が市場を席巻していくことが予測され、先見の明がある父から「これからは灯籠だけじゃなくて、石に関係する仕事は何でも対応できるようにする。そして、商品ではなく技術を売る時代が来るため、職人として突出した技術を持たないと、お客様から選ばれない時代が来る。だから技術を高めるために技能の大会では絶対に一番を取れ!」と、よく言い聞かされていました。
そのため、日々の作業でも技術向上を高く意識し、加えて技能の大会に向けた練習は普段の仕事が終わった後や休みの日などを使って、毎日のようにやっていました。身体的には辛さを感じる時もありましたが、自分は小さい頃からずっと野球をやっていて、努力の差が必ず結果に繋がることを、身をもって経験していました。また仲間と技術を競い合うことで、各段に成長できることも感じており、技能の大会へ出ること=成長できるチャンスだと思って、ひたすら石に向き合っていました。
もう一つ、野球を通して学んだことが目標の大切さです。自分は21歳の時に結婚して、早くに子供にも恵まれました。その時から掲げている目標が、家族を幸せにすることと、岡崎の伝統工芸である石工の技能を守り、伝承していくこと。この二つの目標は今も自分自身を奮い立たせる大きな力となっています。

―代になってからは技能グランプリへ出場され、3回連続で銀賞を獲得。普段の仕事をしながら、このような大会に出ることを負担に感じることはなかったですか?

楠名 負担に感じたことは一度もないです。自分は負荷をかければかけるほど力を発揮できるタイプで、毎回、成長できるチャンスだと思って出場していました。
ただ、技能グランプリの結果は3回連続の銀賞(2位)。めちゃくちゃ悔しかったですが、このような大会に出る石工さんは素晴らしい技術を持っている方ばかり。そのような石工さんたちと仲良くなり、間近で仕事ぶりなども見られて、とても良い経験になったと思っています。

―近年では展示場のリニューアルなど会社の変革も進めながら、商工会議所青年部(YEG)での活動にも積極的に取り組まれています。

楠名 今の時代は職人としての技能だけでなく、経営感覚も高めていかなければ残っていけません。青年部メンバーである商人同士の交流は、経営に大きな刺激になっています。新しいことにも積極的にチャレンジしている仲間の輪にいることで、会社や自己成長への意欲を高められています。
また、一人では成し得ないことも仲間と一緒に取り組むことで、大きな力となっていきます。YEGの活動を通して、心を動かされる場面を何度も体験させていただきました。仕事場とは違うフィールドでの経験は、自社のことを客観的に見つめ直す機会にもなり、経営に役立つ多くのアイデアやヒントに加え、様々なチャンスを得られています。

―御社では具体的にどのような仕事をされているのでしょうか。

楠名 墓石や灯籠、彫刻などを作り、それらを据え付ける仕事。それから庭や神社仏閣・建築・土木の石工事など、石に関する仕事は何でもやっています。最近は全国の石屋さんなどから寄せられるプロ向けの仕事と、エンドユーザーさん向けの仕事と、半々くらいの割合になっています。
墓石づくり・庭づくりもそうですが、自分はお客様と「一緒に作りましょう」というスタンスを大切にしています。お客様には、出来上がりのイメージを感じてもらえるように、当社が加工・施工した様々な事例や展示製品を見ていただきながら、詳しく説明させていただきます。その中で湧き上がってくるお客様の想いや考えをお聞かせいただき、それをもとに自分たちがデザイン化し、形として仕上げていく。お客様の想いを形にできることは職人としてのやりがいでもあり、想いが形になればお客様が抱く出来上がりの満足度も大きく変わってきます。
もう一つ、当社の特徴として、自分の息子や他県から修業に来ている“若い職人”の存在もあげられます。岡崎の石工技能を後世へと伝承させていくためには、何より実践で学ぶ仕事が必要になってきます。だからこそ、当社へ墓石づくり・庭づくりをご依頼いただけるお客様には、「岡崎の石工技能を次世代へ繋げる一翼を担っていただき、ありがとうございます」と感謝の気持ちを伝えています。
お客様からご依頼いただける仕事が職人を育てる大きな力になっていきます。その分、自分たちに想いを託していただいた期待に応えるためにも、特に若い職人には「見えないところまで絶対に手を抜かないように」と徹底させています。
石材業界は現在、後継者不足が課題となっています。我が社では、ありがたいことに長男の康輔が後を継ぐ形で現在一緒に石屋として働いています。その石屋の仕事は、製品を納めてから・工事を終えてからが、お客様との本当のお付き合いの始まりと考えています。当社では、何か不具合などがあった場合には、すぐに対応するようにしていますし、息子がいることで「次の世代も責任を持って対応します」と、胸を張ってお伝えできることも、当社の大きな特徴だと思っています。

次代を担う後継者の楠名康輔さん

―今後の目標を教えてください。

楠名 自分は55歳で息子と社長を交代しようと考えています。その時に、厳しい環境と思える石材業界に入ってくれた息子が安心して会社を継げる体制にしていくためにも、今まで以上の努力と工夫が必要だと強く実感しています。
もちろん、今後への不安もありますが、それ以上に、良い形で息子へ繋げていくための責任と覚悟が、今の自分を突き動かしている大きなモチベーションとなっています。会社は「現状維持で良い」と思った瞬間から衰退していくもの。「必ず発展させていく」という強い意志を持って、いまできることは全てチャレンジしていきたいと思っています。
石屋は、自分たちの技術を活かすことで、お客様の心を癒やし、安らいでいただけるものを作ることができる素晴らしい仕事。この「石屋」という仕事を未来へと繋げていくためにも、これからも自分自身に思いっきり負荷をかけながら、成長し続けていく覚悟です。

石嶽石工業 有限会社

所在地:愛知県岡崎市米河内町字梨形35番地2
TEL:0564-46-3614/FAX:0564-46-3151
ホームページ:https://www.ishiya-ishitake.jp/

いしマガ取材メモ

高度な石工技術を持つ楠名さん。石に向き合う姿は石職人そのものですが、気さくで話好きな性格でもあり、お客様と「つい、長話になってしまうこともあります(笑)」とのこと。いつも前向きで、挑戦好き。子供の頃からあこがれた「石屋」という仕事ができる喜びと、これまで培ってきた技術・知識・経験をもとに、「これからも様々な可能性に挑戦していきたい」と話す姿も印象的でした。職人として「自分たちが作ったものは、すべて自信と責任を持って提供しています」と断言する楠名さん。墓石づくり・庭づくりなどを考えている方は、一度相談してみてはいかがでしょうか。きっと満足度の高い仕事で応えてくれるはずです。