銘店“石屋”シリーズ  有限会社 仲川石材(長野県下伊那郡)

いつまでもお客様への感謝の気持ちを大切にしていきたい

大正10年に創業し、令和3年で100周年を迎えた長野県下伊那郡の有限会社 仲川石材。現在は長男の仲川正博さんが社長、次男の孝志さんが専務として会社を切り盛りしている。今回は同社の歴史や強み、さらに仕事のやりがいから今後の目標まで、お二人に語っていただいた。

仲川正博さん(昭和40年生まれ)・仲川孝志さん(昭和41年生まれ)
創業者である祖父の仲川鶴男さん、2代目である父の仲川覚さんの後を継ぎ、兄弟で同社を運営。兄の正博さん(右)が営業と現場手配などを、弟の孝志さん(左)が加工や施工などを中心に担当し、それぞれの役割分担を明確にすることで強い信頼関係を築き合っている。

―まずは会社の歴史について教えてください。

正博 この会社は、私たちの祖父が、かたちとして永遠に残る「石の魅力」に惹かれ、大正10年に創業したと聞いています。その後は2代目の父が自社工場の機械や設備を充実させて、現在は私たち兄弟が3代目を継いでいます。ちなみに弟は、私よりも先に石屋の仕事を始めているんです。

孝志 私は高校のときから家の仕事を手伝っていました。たしか工場ができる少し前、昭和57年頃からだったと思います。それで実は私の下にも弟がいまして、その弟は三重県鈴鹿市の石材店で働いているんです。

―社長はいつ頃から石屋さんのお仕事に?

正博 私はもともと経理の勉強をしていたんですけれど、会社がすごく忙しい時期に、父が怪我をしたこともあって「手が足りないから戻ってこい」と。今から振り返ると、あのときが自分にとってのターニングポイントでしたね。戻ってきたときはお墓を建てるのがブームのような時期で、工場の機械が毎晩夜の11時頃まで稼働していたのを記憶しています。

(有)仲川石材による国産墓石の建立例

―御社の強みはどのようなところにあるとお考えですか。

正博 今は洋型のお墓を製品の状態で仕入れることが多いのですけれど、一方で和型のお墓は原石から自社工場でつくっていくこともあり、そうした技術力は当社の強みではないかと思っています。
あとは「うちにしかできないことをやろう」と思って、亡くなった方のお顔を戒名の上に焼き付けるレーザー彫刻を始めたり、お墓に屋根をつけるようにしたり。そういった新しいことにはいち早く挑戦するようにしています。

孝志 それに父の代からの信用も大きいと思います。父は仕事一筋の人間で、お客様が来られると、いろんなところに案内して自分の仕事を見てもらうなど、非常に面倒見のいい人でした。そういったお客様に安心感を持ってもらうための努力は、建立後のアフターサービスなども含め、私たちもしっかりと受け継いでいるつもりです。
あとはもう一つ、韓国で墓石づくりを指導されていた方が、うちの会社に来てくれていた時期がありました。その方から加工などの技術的なことだけでなく、展示や宣伝のやり方まで、本当にたくさんのことを教えていただいて。あのときの5~6年間で、会社にとってすごく大きな影響を与えてもらったと思います。

―ここで少しプライベートな質問として、お二人の趣味や特技について教えてください。

正博 私は音楽が趣味で、中学、高校と学校の吹奏楽部でトランペットを吹いていました。その後はしばらく楽器を触っていなかったのですが、会社を継ぐために戻ってきた頃に、「信州博」というイベントに合わせて地元で吹奏楽団を結成することになり、私が団長や指揮などを任されることになったんです。その楽団は今も続いていて、よく演歌やクラシックなどを演奏しています。

―孝志さんはいかがですか。

孝志 若い頃はオートバイが大好きで、工業系の高校に通っていましたから、よくエンジンなども自分でバラしたりしていました。それで何台も壊しましたけどね(笑)。
ただ、それも昔の話でして、ここ10年ほどは篆刻(てんこく)と刻字(こくじ)にハマっています。うちの仕事を手伝いに来ていた方から誘われたのがきっかけなのですが、やってみたら面白くって。これまで書道の経験はなかったのですが、昔から「あんな風に書けたらいいな」と思っていたこともあり、先生に教えてもらいながら、「こんな世界もあるんだな」と。最近はつくったものを名古屋や東京の展示会などにも出させていただいています。

工場には石材加工機械が充実

―石屋さんという仕事のやりがいは、どのようなことだと感じていますか。

正博 やっぱり、お客様から喜んでいただけることですね。自分たちのやったことに対しての評価が、かたちとして見えるというのは大きいです。

孝志 お客様からお墓が完成したあとなどに連絡をいただいて「良かった」と言っていただいたり、「きれいにできとった」と喜んでもらえたりというのは、すごくうれしいことですね。

正博 そして、そういったお言葉を頂戴できることが、次の仕事に向かうときの原動力にもなっていく。本当にお客様に対しては感謝の気持ちしかありません。

―感謝といえば、御社が定期的に行なっているお祭りイベントも、そうした感謝の想いを伝える意味があると聞きました。

正博 そうですね。最初は当社オリジナルの石窯で焼いたピザなどを振る舞いながら、お墓相談を受け付けるというかたちで始めたのですが、まず何よりも「これまでのお客様や地域の皆さんに楽しんでもらうこと」を目的にしています。

孝志 いってみれば感謝祭のようなものですね。もっとも今は、コロナ禍でなかなか開催するのがむずかしいのですけれど。

正博 そのほかの取り組みでいうと、お墓を建ててから2年間の限定で行なっているお施主様へのお誕生日プレゼント。これは父の代から続けていることですが、お施主様からも好評をいただいており、これからも続けていきたいと思っています。

(有)仲川石材オリジナルの石窯も製作

―最後に今後の目標を聞かせてください。

正博 まず一つは、今も申し上げた感謝の気持ちを大切にしていくことです。また現在、大掛かりな仕事にもしっかりと対応できるように、機械の修理や点検も進めているところですが、自社工場で石を加工できるという強みをもう一度見直しながら、石を通じて地元に貢献できる会社でありたいと考えています。

孝志 現在、兄の一番下の子どもが農業高校に通っていて、庭木などの勉強をしていますから、いつかはこの仕事を受け継いでいってもらえたらうれしいです。花などは葬儀にも関係してくることなので、これまでと違う新しいかたちの石屋になっていってくれるんじゃないかと期待しています。

正博 そのためには、どこかのタイミングで弟の技術を学んでもらうことも必要になってくるので、そのときは、ぜひお願いね(笑)。
当社も創業100年を迎えることができましたが、今後、会社を継続していくためには、もっともっと努力していかなければなりません。これからも様々な取り組みに挑戦していくつもりですが、その大前提として、お客様への感謝を忘れない石屋であり続けたいと思っています。

有限会社 仲川石材

多くの来場者で賑わうお祭りイベントも企画

所在地:長野県下伊那郡下條村睦沢220
TEL:0260-27-3516/FAX:0260-27-2166
ホームページ:http://maruturu.com/

いしマガ取材メモ

同社のお祭りイベントについて、ここで少し補足しておきたい。初めて開催されたのは今から6年ほど前。毎回さまざまな企画を立ててバージョンアップを繰り返しながら、現在では多くの人が足を運ぶイベントに成長している。地元の賑わい創出に成功した事例として、テレビ局の取材が入ったこともあるそうだ。こうしたイベントを定期的に開催していけるのも、正博さんと孝志さんの兄弟関係が非常に良好であるからこそ。今回の取材時においても、お互いに信頼し合っている雰囲気が強く伝わってきた。このような兄弟ならではの息の合った家族関係も、安心してお墓づくりを任せられるポイントになっていることだろう。