銘店“石屋”シリーズ  堤石材店(大阪府堺市)

ぼくら石屋さんではなく、お客さまが“トク”をしてくれればええと思ってます

昭和51年に大阪府堺市で創業し、現在は2代目の堤義彦さんが代表を務めている堤石材店。同社に寄せられる仕事のほとんどが、同社でお墓を建てたお客さんからの口コミ・紹介という石屋さんなのだが、お客さんに支持される理由とは、いったい何なのか?時間をかけて丁寧に行なっている施工へのこだわりや、お墓への想いなどを通して、その秘密を解き明かしていきます。

堤 義彦(つつみよしひこ)さん
(昭和47年/大阪府生まれ)
若い頃はボクシングにのめり込み、アルバイトとボクシングに明け暮れる日々を送った後、石屋の世界に飛び込んだ。日頃の楽しみは、仕事が終わった後に地元の飲み屋さんに顔を出し、お酒を飲みながら地域の方たちと交流を深めること。また、年に一度の地元の祭りにも命をかけているという。

 

――まずは堤石材店の歴史を教えてください。

 ぼくが4歳くらいのときに、父の義弘が始めたお店です。父はもともと香川県の出身で、地元・香川の銘石である庵治石の産地で職人として修業を積んでから、大阪に出てきて独立したんです。それが昭和51年のことですね。
それで、ぼくがお店の仕事を手伝うようになったのは19歳のとき。当時はボクシングに夢中だったんですけど、事務仕事をしていた母が病気で倒れてしまったので、練習のない日に店番を任されるようになったんです。
その後、母は幸いにも仕事に復帰することができたのですが、今度は父から「忙しいんで現場も手伝え」と(笑)。「いつかは家の仕事を継がなあかんな」とは思ってましたから、父と職人さんに教えてもらいながら仕事をおぼえていって、どんどんこの仕事のおもしろさにのめり込んでいった、という感じです(笑)。

 

――現在のメインのお仕事はなんですか?

 今はお墓の施工が中心ですね。それもできるだけ、外柵などに使う石は中国産であっても、お墓の本体自体は大島石や庵治石といった国内産地加工の石を使いたいと思ってます。そういった国産材なら、父の頃からお願いしている加工メーカーさんがいるので、ミリ単位の注文にも対応していただけますし、あとあとのことを考えたら、そのほうがお客さまにも喜ばれると思うんです。
加工メーカーさんにはきついことを言うときもありますよ。ただ、そのかわりに、こちらも責任をもって、きちっとした施工をしなければならない。昔の石屋さんだと「石屋の仕事は地面より上」という方もいましたが、ぼくのところは、それぞれの土地の状態に合わせて、基礎の打ち方から考えるようにしています。下の土が悪いからといって、なんでもかんでもベタ基礎(床全体にコンクリートを打って作る基礎のこと)を打っておけばいいというものでもなくて、逆に水はけが悪くなってしまうこともありますからね。
それに最近は、施工に回転レーザー機を使用しています。これを使うと、ミリ単位の施工精度を出すことができるんですよ。石の価格だけでいったら大きな会社にはかなわないかもしれませんけど、そういった一つひとつの手間のかけ方は、まったく違うと思っています。

ミリ単位の施工精度を実現する回転レーザー機を使用

――お仕事以外で趣味とか特技などはありますか?

 最近は休みもほとんどないですから、仕事が趣味になっているかもしれへんですね(笑)。ただ、仕事が終わったあとにお酒を飲みに行くのは大好きです。
ぼく、朝の8時から夕方5時までの仕事のあいだは、手を抜きたくないから、ほとんどしゃべらないんです。そのかわり、仕事が終わったら、ちゃらんぽらんなタイプで(笑)。人見知りな部分もあるんですけど、誰とでもオールマイティに話せるというか、人とすぐに打ち解けてしまうほうなんで、飲みに行った先で新しい友だちができることも多いです。
あと、特技といえば穴掘りです(笑)。スコップを使わせたらうまいですよ(笑)。土が固いときでも、「ここにスコップを入れたらラクなんちゃう?」というのが、なんとなくわかるんです。たぶん『スコップ2段』くらいの腕前はあると思いますよ(笑)。

 

――お墓の仕事でやりがいを感じるのはどんなときですか?

 ぼくのところは、図面が決まってから完成までに最長で3ヵ月ぐらいかけてるんです。土を掘ってからも少し日にちを置いて、雨が降ったときの水の流れ方やたまり具合などをチェックしたり。そうやって何度も現場に足を運んでいると、「ここはこんなんしたほうがええかな」っていう考えも思い浮かびますし、やっぱり施工って、手間をかけた分だけしっかりした工事になるんですよね。
基礎工事をしているときも、「もうここまで掘ったから、ええんちゃうかな?」と思うときがありますけど、つい「いや、もうちょっといったらもっと固い地盤に行き付くはずや」とか考えてしまったりして(笑)。
それで実際に出来上がったら「やっぱりやっておいてよかった」と感じることが多い。とにかくぼくらは、自分たちがトクをしたいんじゃなくて、お客さまに「トクしたな」って思ってもらいたいんです。一つひとつ手間をかけていくことで、お客さまに「うちのお墓、きれいだな」とか「(水平で)ぜんぜん狂いがないな」って喜んでいただけるのが、やっぱり一番のやりがいですね。

堤石材店が手がけた建墓事例

――最後に、これからの目標などを教えてください。

 今は石屋さんも「自分が職人じゃなくてもいい」とか「下請けに出せばいい」っていうケースもあるかと思いますが、その波には乗りたくないと思ってます。そう考えるようになったのは、数年前に父が亡くなってから。
正直、悩んだ時期もありましたが、「これからも父と一緒にこだわってきたやり方を続けていこう」と決心したんです。そして、ゆくゆくは次世代の子たちを育てていければ。「次がいる」ということが、お客さまの安心にもつながっていきますからね。
あと、仲のいい人や、いつも遊んでる人から聞かれたときには答えるようにしているんですけど、なんでお墓が大切なのかってことを、少しずつでもいいので、お客さまや一般の人にも伝えていけたらと思っています。やっぱり先祖さんがおっての自分ですからね。お墓に行けば先祖さんと会えるんやから、たまには顔を出すようにしたほうがいいと思うよ。そうしたら、先祖さんも喜んでくれるはずやから。そんなことを話していけたらええなと思ってます。

 

堤石材

所在地:大阪府堺市南区鉢ヶ峯寺616-6
TEL:072-291-8189/FAX:072-291-5755

いしマガ取材メモ

広告を出したり訪問営業などは一切行なっていないという堤さん。それでもお客さんが途切れないのは、仕事の丁寧さや人柄に惹かれたお客さんからの紹介が後を絶たないから。今回のお話で、そんな堤さんの“人となり”がしっかりと感じられました。
また、万が一にもお墓が傾いたりするようなことがあれば、何年経っても無料で直してくれたり、霊園の都合で工事ができない土曜・日曜には、お客さんのお墓をまわって枯れた花を片付けたりするなど、細かいところへの気配りも大切にしています。「お墓を建ててからの付き合いのほうが長いので、これまでのお客さんのことは皆さんしっかりとおぼえています」と話す堤さん。このような姿勢もお客さんからの評価につながっていることでしょう。