石コラムVol.19 野面(のづら)
「よく磨かれた石」と「山から掘り出された野面石」とを比較して、たとえばヒラメの調理方法を思い浮かべてみると、前者がフランス料理のムニエル、後者が日本料理の刺身にたとえられるかもしれません。どちらもそれぞれの持ち味がありますが、素材の良さを十二分に堪能しようと思えば刺身料理に軍配が上がるのではないでしょうか。
磨き加工の墓石が大半を占める墓地の中では、野面を活かしたお墓は、ひと際、目を惹くように感じられます。特に磨きと野面を組み合わせた加工を施しているものは、色や石肌のコントラストの趣深さが目を引きます。
磨きと野面のコントラストが美しい国産石材として知られるものに、神奈川県で採れる「本小松石」と宮城県で採れる「伊達冠石」があります(ともに安山岩)。
本小松石は山から割れ石の状態で掘り出され、表面は茶褐色をしていますが、研磨すると独特の淡灰緑色になり、落ち着きのある上品な雰囲気が漂います。石質は硬く、耐久性にも優れており、関東地方を中心に高級石材として根強い人気があります。
伊達冠石の表面は黄褐色の土をまぶしたような素朴で野趣あふれる色合いをまとっていますが、磨くと灰黒色の光沢が現れ、濃淡の強いコントラストが表現できます。丸玉を中心にさまざまな表情を持つ自然石の形状で産出され、その形をそのまま活かして、墓石や記念碑などによく使われています。
これら2つの安山岩は、地中でゆっくり固まった花崗岩と異なり、地表に流れ出たマグマが急に冷えて固まったもので、人の手を加える前から大自然による造形がなされているかのような印象を受けます。
また、野面(皮肌とも言います)と磨き面の対比に趣があることも、両者共通の特徴といえます。包丁さばき以上に素材の見極めが刺身料理ではものを言うように、野面(皮肌)を活かしたお墓づくりの成否も、原石を選ぶ目に大きく左右されるものと思われます。