楽しい石入門 10時間目「液体の水と化学式の水の違い」
水という言葉で雰囲気が一変
記者 先生、今日もよろしくお願いいたします。
実は読者の中から「そろそろ岩石と水の関係を取り上げてもらいたい」という要望が多く寄せられていまして。今回はぜひ、そのテーマでお願いできればと思っているんです。
先生 なるほど。やはり石材業界の皆さんは、常に水のことを気にされてらっしゃいますよね。私も一昨年だったと思いますが、石産協の地区会議で講演をさせていただいたことがありまして。そのときのことが強く印象に残っているんです。
記者 へ~。どんなことがあったんですか。
先生 大勢の石屋さんの前でお話をするのは初めての経験だったんですけどね。そのときは、最初のほうで原子番号の話をしたんです。ただ、そこがどうも皆さんの眠気を誘ってしまったみたいで・・・。
記者 なるほど~。お話があんまり難しいと眠くなるっていうのは、すごくよくわかります(笑)。
先生 そうなんです。だから途中で話題を変えたんですよ。そうしたら「水」という単語を出した瞬間に、会場の空気がガラッと一変しまして。
記者 全員がムクッと起き上がって、いきなり前のめりになったと(笑)。
先生 ええ、そんな感じです。会場に漂っていた眠気が一気に吹っ飛んで、「きた~」みたいな(笑)。
記者 ナハハハ
先生 それで最後に質問をいただいたのですが、もう水の話題ばかり「やっぱり一番の興味はそこだったか~」と痛感しました(笑)。
地質学での水は液体の水ではない
先生 ただ、最初に少し難しい話をしたのは、ちゃんとしたワケがあるんです。
記者 えっ、といいますと?
先生 石材業界の皆さんが普段からおっしゃっている水というのは、雨とか地下水とか、いわゆる液体の水のことですよね。でも私が専門にしている地質学では、あくまでも化学式としての水なんです。
記者 ・・・それってどう違うんですか?
先生 たとえば黒雲母の化学式には、最後に(OH)₂があるのですが、これが地質学でいうところの水にあたるんです。つまり、何らかの化学反応が起こった場合に、分離してH₂Oになる可能性を秘めているもの。要は酸素と水素ということなんですよ。
記者 じゃあたとえば、液体の水は、実際に人間の目に見えるものですよね。でも先生のおっしゃる化学式の中の水というのは、目には見えないというか・・・。
先生 ええ、顕微鏡を使っても見ることはできません。酸化鉄と同じですよね。あれは酸素が含まれていますけど、だからといって酸素が見えるわけではないですから。
記者 そうか、確かに。でも先生、素朴な疑問なんですが、見えないのに、どうやってそこに酸素や水素があるってわかるんですか?
先生 一つは、さまざまな化学反応を利用するという方法ですね。たとえば、希塩酸に金属を入れると水素が発生します。このことによって水素が希塩酸の中に含まれていることがわかるわけです。
記者 なるほど~。
先生 あと、私の場合ですと特性エックス線を計ることのできる装置を使います。岩石に電子線をあてると、原子によって特徴的な波長の電磁波を出してくるので、それを測ることによってどんな元素があるのか、あるいはどれくらいの比率で含まれているのか。そういうことが、この装置だと鉱物を溶かしたり砕いたりせずに調べられるんです。
隙間の多さで吸水率が変わる
記者 では先生、石に水が含まれているっていうと、普通は石の隙間に水滴が入っているようなイメージがあるじゃないですか。でも、そうではないということなんですね。
先生 ええ。そもそも石屋さんがおっしゃる水というのは、そういった内部の水ではなくて、外部からの水ですよね。雨などが吸い込まれることによって、石が割れたり、品質に影響が出たり。つまり、吸水率といわれる・・・。
記者 そう、ぼくも実は一番知りたいのはそこなんですたとえば、同じ花崗岩でも、なぜそれぞれの石によって吸水率が微妙に違うのか?
先生 う~ん。でも、それは岩石ができた後のお話なんですよね。私が研究しているのは、あくまでも岩石ができるまでのこと。そういう意味では、決して専門ではないんですよ。
記者 そうなんですか~、残念。でも言われてみれば、石ができる前とできた後のことでは、話が全然違いますもんね。
先生 ただ、クラックから水が入るにしろ、あるいは毛細管現象で入るにしても、要は岩石に隙間があるかどうか。それだけは確かだと思います。隙間がなければ、水が入り込むわけがありませんから。
記者 隙間・・・ですか。
先生 ただし、鉱物は粒なので、粒自体に隙間があるわけではありません。あるとしたら、粒と粒のあいだ。岩石の種類によって、そういった隙間の多さというのが違ってきますから、それが吸水率の違いにもつながってくるんだと思いますよ。
記者 なるほど~。
先生 すみません。吸水率に関しては、あまり無責任に答えるわけにもいきませんから、これくらいのことしか言えないんです。ただ、岩石と水の関係は、掘り下げていくとすごく面白いお話がいろいろ出てくるんですよ。
記者 そうなんですかいずれにしても、水というのはかなり関心の高いキーワードですからね。そのあたりのことは、ぜひ次回で。
先生 わかりました。ではひとまず、今回はここまでですね。
記者 はいありがとうございました。次回も楽しみにしていますので、よろしくお願いします。