石コラムVol.17 象嵌加工
墓石に文字以外の彫刻を施すことも珍しくありません。特に人気があるのは花の彫刻です。花の彫刻にもいろいろな技法があります。花の描線の部分を掘り込む線画彫刻もあれば、立体的に造形する浮き彫り(レリーフ)もあります。
花の彫刻は黒・赤・緑などの濃色系の御影石に施した場合、濃淡のコントラストが出て美しく映えます。しかしながら、白御影などの淡色系の石の場合には、コントラストが出にくいためにせっかくの彫刻も効果が弱くなります。
白御影や桜御影などの淡色系の石に効果的な彫刻をしたい場合、象嵌(ぞうがん)加工という選択肢があります。象嵌加工は下地となる石を彫り、そこに他の石材をはめ込む技法です。下地にどんな石材を用いても、異なった色の石をはめ込めばコントラストを表現できます。通常は墓石に使われない大理石などの石材も、ワンポイント装飾ならば用いることもできるでしょう。
建築石材なども含め、多種多様な石材を用いることができ、アクセントの効いたデザインを可能にする象嵌加工ですが、メリットはそれだけに留まりません。通常の線画彫刻や浮き彫りの場合は、彫られた部分に汚れが付きやすくなってしまいますが、象嵌の場合は下地の石に隙間なくはめ込まれるため、その心配が少ないというメリットがあります。また、塗料で着色する必要がないため、色落ちのリスクがないことも利点です。
象嵌加工を施すことができるのは花の絵柄だけではありません。「夢」「愛」といった墓碑銘にも象嵌を施している場合があります。キラキラと輝く結晶の入ったブルーパールという石で黒御影石に「夢」という文字を象(かたど)れば、夜空に輝く星のような雰囲気が漂います。赤御影に白い大理石で「愛」という言葉をはめ込めば、文字が鮮やかに引き立ちます。また、様々な色合いの複数の石をモザイク風に組み合わせれば、カラフルで明るいイメージも表現できます。
象嵌は読んで字のごとく「象(かたど)る」と「嵌(は)める」を合わせた言葉で、本来は異なる素材をはめ込んで、形や模様を象る装飾技法です。金工象嵌、木工象嵌、陶象嵌などがあり、金工象嵌は、早くも飛鳥時代に、シルクロード経由で日本に伝わったとされます。江戸時代には、日本刀、甲冑、鏡、文箱、重箱などに象嵌技法がよく使われていたようです。
美術工芸品で磨かれてきたこの日本の伝統文化を墓石に活かさない手はないでしょう。象嵌加工を採り入れることで、墓石のデザインの幅はもっと広がりを持ちそうです。