石コラムVol.15 ドイツ語圏の墓石
ヨーロッパの墓石を写真などで見ると、彫刻のボリュームに圧倒されます。特にイタリアやフランスの墓石は、あたかも彫刻作品のように芸術性を感じさせるものが多く、石文化の質の高さに驚かされます。
日本における偉人のお墓を掲載した書籍やサイトがありますが、世界のお墓を手軽に知りたいときには、『芸術家100人の墓』や『マエストロたちの永遠のすみか』といった本、『世界恩人巡礼大写真館』といったサイトがあります。
しかしながら、これらに掲載されているのは著名人のお墓で、西洋の墓石の特徴を伝えてくれはしても、それぞれの国の墓石文化を代表しているわけではありません。
あるドイツ人から墓地の写真を見せてもらったことがありますが、異国のありふれた墓地に建つ無名の人のお墓に、著名人のお墓以上に興味をそそられるものがありました。曲線の参道に沿って建ち並ぶ墓石には、外柵のような仕切りは設けられておらず、草花が墓石を包みこむように配されています。
ドイツ、オーストリア、スイスなどのドイツ語圏の墓石は、イタリアやフランスなどの墓石とは少し趣が異なっています。華美な彫刻は少なく、高さも抑えられていて、フォルムも控えめな印象がありました。日本の墓石にとって参考にしやすいといえそうです。
国土面積、人口、宗教や風土、火葬率の違いなどによって、墓石のスタイルは大きく異なってきますが、アジア諸国のお墓よりも西洋のお墓のほうが現在の日本には影響を持っているようです。
日本の芝生墓地はアメリカのアーリントン国営墓地を参考に導入されたと聞いています。アメリカでは十字架型やプレート型が主流ですが、日本では「洋型墓石」と呼ばれるオルガンタイプの墓石が主流です。「洋型墓石」と呼ばれてはいますが、これは日本流のアレンジによって生まれた形です。
洋型墓石は芝生墓地に合う形として支持されてきましたが、現在では芝生墓地以外の一般墓地でも和型墓石をしのぐほどに洋型墓石が普及してきました。しかしながら、西洋の墓石をモデルにし、それを換骨奪胎(かんこつだったい)したデザインは、まだまだ開拓の余地があると思われます。ドイツ語圏の墓石はそのためのヒントを与えてくれそうです。