彫刻家に聞く「石の魅力とは」vol.33(大島由紀子氏)
この企画では、彫刻家が感じている「石の魅力とは何なのか?」、「なぜ石で彫刻を作っているのか?」ということをお聞きしていきます。
今回は東京・銀座にありますギャラリーせいほうで開催された大島由紀子さんの個展でお話を聞かせてもらいました。
「石の魅力は、私は“硬さ”だと思います。自分の作りたい形の方法が、木だと軟らかい気がして自分の形が上手く表現できないんですけど、石という硬さを持った素材は、自分の形が出やすいんですね。
あとは外に置いておいても大丈夫なところ。例えば、作品を作って設置するじゃないですか。長い時間が経って帰ってきても、ありのままのそのままでいてくれる。変わらずにいる。そういった存在ですよね。
何で石を選択したかっていうと、彫刻って大きくいったらモデリング(粘土、溶接などで肉付けして作る)とカービング(素材を削り出して作る)の仕事にわかれるんですけど、その中で私はモデリングよりもカービングのほうが自分の形を表現しやすかったというのがありますね。
石は“硬さ”が魅力と言いましたが、学生の時に私がちょうど作りたい形があって、石で制作したら作業的な時間がとても良い時間だったんです。それはどういうことかというと、すぐにできない、時間が掛かるというなかで、石とのやりとりができる。それが自分の作品を作るための良い時間だったんですね。
ノミの手彫りでやっていましたが、石は硬くて大変で、最初の頃は何回も手を打っていたし、大変だったけれども、嫌いじゃなかった。すごく時間が掛かりましたが、その時間が自分の思考する時間とすごく合っていたんです。すぐに形になってくれない時間がこちらに考えさせるというか、そういった時間が私には良かったんですね。
作品に対しては、私は身近な生きているものに対してすごく想いがあります。だからといって、具体的な形を作ろうとは思っていないんですね。例えば、作った時になんとなく背中に見えるとか、なんとなく手に見えるとか、そういうようなものを作りたいと思っています。
今回の個展は「波の先」っていうタイトルが付いていますが、砂浜に波が来て去っていく時に残された貝殻とか流木とかあるじゃないですか。そんなものの状況を作りたかったんですね。それにしてはゴロゴロとデカい作品だなって感じですが(笑)、砂浜に落ちているものが海で磨耗したような、そんな感じです。
今回使った本小松石は、彫っていると結構大きな塊でボコボコと取り過ぎてしまって、なかなか形になってくれないので、形を保つためには線彫りで留めていかなきゃいけないと思い、このやり方で制作しました。
線彫りのノミ跡が面白いなと思いましたが、シマシマの跡を付けたいと思ったのではなくて、形を追い求めた後に付いていくってことが面白くって。一度線彫りで作品を作ってみようと思い、発表しました。
荒彫りは普通にはつっていって、8分のノミで彫っていってから6分のノミで仕上げていきました。最初はカッターを使って荒取りを少しだけしましたが、ほとんどはノミの丸彫りで作っています。
作品は2年半くらいかけて作りました。少し彫っては眺めて、また彫り始めるといった感じです。とても時間が掛かりますが、先ほども言いましたとおり、私には石とのやりとり、対話の時間が大事なんで、ほぼ手彫りで制作しています」。