彫刻家に聞く「石の魅力とは」vol.29(安部大雅氏)
この企画では、彫刻家が感じている「石の魅力とは何なのか?」、「なぜ石で彫刻を作っているのか?」ということをお聞きしていきます。
今回は東京・銀座にありますギャラリーせいほうで開催された安部大雅さんの個展でお話を聞かせてもらいました。
「石の魅力は単純に言うと、硬さに対する魅力ですね。自分の攻める力と向こうが返してくる力の均衡点を探すっていう作業が好きだということがありますね。
でも僕はほぼ堆積岩、砂岩や大理石を使っているんです。いわゆる御影石とか火成岩をあんまり使わないのは、堆積岩のほうが地球って感じがしちゃって。地球の肉を切り取っているような、そんな感じで使っています。御影を使うこともありますが、それよりもデリケートな、静かな堆積をして出来た堆積岩が好きで使っていますね。
石が好きになったきっかけは、高校を卒業してイタリアに行こうと思っていたんですけれども、将来的に大きい作品を作るつもりだったので、建築の勉強をしてから行こうと思って、高校卒業後2年間、建築の勉強をしました。それからイタリアのカラーラに8年間住んでいました。
高校の時は金属で作品を作っていて、石は補助素材的な考え方をしていたんです。メインはステンレス等の作品で、台座に石を使うくらいの感覚で。ただ、補助素材でもイタリアの石は高いから、イタリアに自分が行っちゃおうと思いたって。まぁ石も含めて彫刻をやろうと思っていたので、30歳まではイタリアにいようと思っていました。それで、イタリアに行ったら大理石の面白さにハマっちゃった。それ以来、作品に大理石の板材を使いだして、立体をやるようになっていきました。
ハマった理由は、石を彫り出していくこと。先ほど言った、石が返してくる力、反発ですかね。僕の中では立体を作る時って、内圧と外圧の力の均衡点っていうのを探していて、石はそれが一番シックリくる素材だったんです。
粘土とかって、どこで止めていいのかが分からなくなってしまう。金属も付け足す仕事じゃないですか。でも石ってただ攻めていく、それで向こうが返してくる。その段取りというか、仕事の工程が自分にとてもハマったんです。ノミで打って返ってくる、それで少しずつ力をせめぎあうみたいな感じが好きですね。
作品のコンセプト、一番大きいテーマは必然性、言葉でいうとそういうテーマになるんですけど、自然物みたいな印象を作りたいなと思っています。
昔は布でも作品を作っていたんですが、引っ張り合った布の形って、ひねると勝手に出来る形ってあるじゃないですか。引っ張ってはいるけれども間の形、フォルム、ラインって自分のコントロールじゃないんですね。ああいった必然性、自然物でいったら山とかが目標で、ああいった説得力のある形を作っていけたらなと思っています。
ただし、人間の手が加わっているってことも含めながら、自分の作品が川に転がっていても不自然じゃないような印象の作品、川石の丸みの帯びた必然性、自然現象のような印象を与えたりもする、そういった感じの作品を作りたい。だから、すごく抽象的になっちゃいますね。
今回は中央のテーブルに乗っているマケットサイズの作品を、お客さんが自由に選んで、ホテルの背景をイメージした台に飾れるという展示にしました。自分で手に取って好きな風景を作るという体験、参加型のパブリックアートをイメージして欲しいなと。
サブタイトルを「手にする風景」としているのも、手にしたものを仮想空間の風景として見立ててもらうって感じ、いわゆる模型展で、アトリエに来てもらったような感じですね。それで雑多な雰囲気でテーブルに並べているんです。
普通の個展ではこんなバラバラなタイプを並べないんですけど、とにかくパブリックアートってこういうもんだということをなるべく多くの方に伝わるように、このような設えにしました」。