彫刻家に聞く「石の魅力とは」vol.22(吉村サカオ氏)
この企画では、彫刻家が感じている「石の魅力とは何なのか?」、「なぜ石で彫刻を作っているのか?」ということをお聞きしていきます。
今回は東京・銀座にありますOギャラリーUP・Sで開催された吉村サカオさんの個展でお話を聞かせてもらいました。
――石彫家 吉村サカオ氏が考える「石の魅力」とは?
「石って御影石には御影石の魅力、大理石には大理石の魅力があるんですよね。違うイメージがあって、同じ形を違う素材で彫ろうとは思わないんですよ。
この作品にはこの石っていう感じで、御影の魅力は鋭さというか、カッコイイって思っちゃうんです。自己主張をしてくるような感じがして、シャープな線を作りたいなと思いますし、黒御影は磨きの差で表現できるので、彫刻には面白いなと思います。大理石は模様が綺麗なので、ふっくらとした形を作りたくなりますね。
石を触ったのは多摩美の1年生の時の石彫実習で、本小松石を彫ったのが初めてでしたね。当時は友達と、要らなくなった墓石をもらってきて彫ってたんですよ。ひと通りいろんな素材を経験したけど、石は抵抗力があったし、若いから何とかしてやろうみたいな感じで面白かったんだと思います。
今回の個展では手で癒す空間みたいな感じにして、作品に触って下さいって言って、触ってもらうんです。作品は800番から1000番位の磨きで仕上げているんですけど、見に来てくれた方は〝ザラッとしている感じがしているかと思ったら、こんなにツルツルしてるんだ。気持ち良い〟と皆さん言っていました。
石はこういうもんだっていう印象が、触ると変わるんだよね。やっぱり石には石の温度とか触れた時に感動するものがあります。それも石の魅力ですね。
最近は本小松石にハマっちゃったんだよね(笑)。派手ではないし、色合い、風合いが不思議だなぁって思います。
本小松石という素材は御影石とは違うあたたか味があって、すごく空気感があってね。個体なのに空気みたいっていうのもおかしいんだけれども、その魅力がこの中にあるっていう感じがします。人間的っていうのかな、命があるっていうか、静かにものを語りかけるみたいなところがあるから、自分の性格にこの石はあっているのかなと思って使っています。
あとは石自体にエネルギーがあるじゃないですか。本小松石の山に行くと感動しちゃうよね。ちっぽけな事はどうでもいいやって感じになっちゃう(笑)。
石自体も1つの塊で、茶色い皮肌の個性的な形をしているので、エネルギーをもらっているって感じだし、山に行って石を選んでいる時点で、面白いなぁと思いはじめて。作品に自分の形を押し込めるって事じゃなくて、逆にこの石に聞いているって感じですかね。それが出来る面白い石だと思います。
例えばドリルを入れて石を割ったんですけど、うまければ真っ直ぐ割れる所が斜めに逃げちゃったんです。その部分を見て面白いなと思って、そこから今まで自分の思っていた形を全く変えて、割れた形を活かして作っちゃったんです。
それは石から教わったみたいな、自分が作る頭の中にあったものと違うものに出会えたといった感じでしたね。だから最近の作品は石を見ながら考えていて、いつも石に相談してるの(笑)。最初からこうしてやろうっていう感じでは無く、石を見てからこうやろうといった感じで作り始めています。昔は石に対して綺麗なものを作って、変わらないものを求めていたんですね。ピカピカに磨いていかに艶が落ちないか、みたいな感じが良いと思っていたんですが、本小松石は時代と共に風化していくのに一番面白い石だなって思いました。
古くなった時の味わいが良いよね。変わっていく、馴染んでいく、枯れていくっていうのかな。この石、なんか生きてるなって思うんですよね。呼吸している石っていう感じですかね。それが本小松石の一番の良さ、魅力だと思います。
歳をとってだんだん石のことを受け入れて、自分が歳と共に変わっていく。もうちょっと石と向かい合うというか、石と同じ方向を見ていこうみたいな感じをイメージして、石としか見えない世界を作りたいといった感じがあります。作品は、見る人が想ったことを共感できればいいなと思って制作しています」
とおっしゃっていました。