山田真喜子の「イタリア石風景」Vol.3~「石とポエム」公園とレ・ディプリア霊園~
2018年は第一次世界大戦終結百年という節目を迎えた年でもあり、欧州各地で祈念事業が開かれた。この欧州の中で、1914年、旧オーストリア・ハンガリー帝国とイタリアとの領土争いのために、モンテ・ミケレ山の周辺地帯は戦火が交わされた。
この地にある「石とポエム」公園(詩人・ウンガレッティ公園とも呼ばれる)は2010年、カステル・ヌオヴォ・ワイナリーの敷地に作られた。
この公園は、その年のヴェネツィア国際建築・ビエンナーレの特別賞が与えられた場所としても知られており、百年前に血に染まった山が、今は豊穣なワイン生産で新世代に活力を与えているといえる。ウンガレッティの詩集「埋れた港」では、当時の国境沿いに列をなして作られた土壕の中で暮らしながら対戦を待つという、過酷な人身戦争の醜さ、人間が究極の「生きる意味」を追求したことが書かれている。
近郊のディ・ルパ地方から運ばれた灰色の石材にイタリア語が刻み込まれている。この手法は古代ローマ時代から伝わるもので、あらかじめ刻んだくぼみに鉛を埋め込み、さらにイカの骨で磨いたという。作者は現隣国のスロベニアの職人で、すでに他界されているとのこと。
この公園から車で20分ほどの場所に、イタリア国立博物館も兼ねる「レ・ディプリア」第一次世界大戦百年祈念公園がある。大きな階段状に22段(各高さ2.5m)、前方にはヴァルカモニカ地方の赤大理石各75トンが重要人物の慰霊碑となっている。
山一面に、20歳ほどで命を落とした青年たち約11万人(3万9857人をアルファべト順に、他者は無名墓陵として上部に纏められている)の霊を祀る巨大な石造建築霊園である。正式に開園したのは1938年で完成までに10年かかっているという。
「百年の正直」ということわざがある民族もあるが、第一次世界大戦後の平和とは、欧州のアカデミックな考察では、第二次世界大戦へと移行した歴史を振り返る意味でも、新世代の教育に大いに役に立つと考えられている。
かつての第一次・第二次大戦の戦地や山道、土壕・防空壕、これらの場所と記憶を新世代に向けた、歴史教育と訪ね歩くスポーツ観光として奨励しつつ、広い意味で、これらの場所を環境保護として緑地帯と繋げていく活動が開始されて約10年になる。中でも石文化に向けた意識の高い地域では、崩れかけた土壕をボランティアで新たに石を積み上げ直すなどの修復活動も活発である。
2018年11月4日、イタリアでは百年前の大戦終戦記念日を迎えることとなった。