楽しい石入門 1時間目「岩石と鉱物はなにが違うの?」
石を分析すると、1億年前がわかる
記者 先生、今回から石に関する様々な知識・情報を教えていただきますよう、よろしくお願いします。
先生 こちらこそ。石にはたくさんの魅力や面白さがありますから、そういうことを少しでも多くの方にお伝えしていけたらいいなと思っています。
記者 では、まず連載の1回目ということで、先生のご紹介も兼ねながら、普段はどのような研究をされているのかについて教えてください。
先生 わかりました。私の専門は変成岩岩石学といいまして、簡単にいえば、地殻変動などによって今は地上に出てきている岩石が、かつて地中の奥深くにあった頃、どんな温度や圧力を受けて、あるいはどのような環境によってできていったのか?そういうことを探っていく学問です。
記者 そんなことがわかるものなんですか?
先生 岩石の中で起こっている化学反応から分析していくんです。化学反応には様々な種類があって、それぞれが決まった温度で起こりますから、仮に温度が400℃では、こういう鉱物ができる、では600℃だと…。
記者 ちょ、ちょっと待ってください600℃って、そんなに高い温度だったときがあるんですか
先生 もちろん、今だって地中は同じ温度ですよ。ちなみに私が研究した岩石の例では、数千万年ほど前にそれくらいの温度だった石がありました。
記者 数千万年前って…。確か石器時代でも、200万年くらい前のことだといわれていたような…。
先生 それよりもっと遥かに昔ですから、恐竜が地球上を歩いていたような時代ですね。そんな太古のことが調べられるのも、かつては地下50㎞くらいのところにあったような石が、その一部ではあるけれど、長い時間をかけて地上に出てきているからなんです。ちなみに今、人間がドリルを使って掘っていくことができる深さはどれくらいだと思いますか?
記者 …さっぱり検討もつきません。
先生 私も正確な数字まではわかりませんが、おそらく10㎞程度だと思います。
記者 50㎞と比べたら、わずか5分の1程度ですか。
先生 つまり石の温度を推定することによって、人間が到底掘れないような深さのことまでわかってしまう。そして地下の温度がわかれば、今度は日本列島がどのようにしてできていったのか?そういうことまで推測できるようになるんです。いってみれば、石を地球の温度計として使っているようなものですね(笑)。
記者 なんと石ひとつで、そこまでわかってしまうんですか
先生 そうなんです。だからもう、こうして化学や物理の理屈で石を解き明かしていくことが楽しくて仕方がない(笑)。ちなみに地球の歴史は約46億年ですが、現在までに見つかっている中で、もっとも古い岩石のひとつはカナダのアカスタ片麻石。これは実に40億年ほど昔のものだといわれているんですよ。
記者 すごいまさに石というのは、それこそ地球の誕生にもつながっていくような壮大なスケールを秘めたものなんですね
先生 まさにそのとおりです。どうですか、石ってすごく面白いでしょう?
岩石は様々な鉱物の集合体
記者 ところで先生、石の図鑑などを見ると、石は石でも、岩石と鉱物はまた違うものなんですよね?
先生 鉱物というのは、ごく一般的にいうと「特定の化学組成を持った結晶」のことですね。つまり、すべての物質の構成単位である原子が、まるでオモチャのブロックみたいに規則正しく並んでいるんです。
それに対して岩石は、様々な鉱物の集合体。いろんな鉱物が不規則に少しずつ混ざっているので、ごちゃまぜで、鉱物のように化学式できれいに表すことができません。
記者 う~ん、わかったような、わからないような…。
先生 では花崗岩を例にとってみましょうか。岩石である花崗岩の中には、石英や長石、黒雲母などが入っていますね。
記者 あ、それはわかります
先生 それらが、つまり鉱物です。ですから花崗岩は、割っていくと石英だったり長石だったり、それぞれの鉱物に分かれてしまう。でも鉱物である石英や長石は、どれだけ割っても石英と長石のまま。これが大きな違いです。
記者 なるほどすごく腑に落ちました。岩石は鉱物が集まってできていると。…あれということは、鉱物は一体どうやってできているんですか?
先生 それは岩石の種類によっても変わってくるのですが、花崗岩の場合でいえば、鉱物ができるのはマグマが冷えて固まるときです。
記者 マグマというと、イメージ的にはドロドロの…。
先生 そうです。その液体であるマグマが固体になるときに、マグマの中の元素から結晶、つまりは鉱物ができていく。そして、それらの鉱物などが集まって岩石、より正確にいうなら火成岩になるというわけです。
記者 な~るほど。
先生 さて、では本日はここまでにしましょう。次回は、最後に少しだけ触れた火成岩と、そのほかの岩石についてお話していきます。
記者 先生、どうもありがとうございました。